玉ねぎの皮むき工場と大型冷蔵庫を訪れ、 国産品と輸入品の使い分けや、 農家から食品事業者までをつなぐ流通の仕組みを知る。 東京大学の学生6名が埼玉県三芳町・所沢市を訪れ、 農産物の加工、保管、品質管理を通して、 農業と食卓の間を支える「1.5次産業」の価値を学びました。
本記事では、東大生地方創生コンソーシアムの学生たちが主体となって実施した活動を、共創パートナーであるミライクエストの視点から紹介します。
プロジェクト概要
- 事業名
- 埼玉・三芳フィールドワーク2025
- 実施日
- 2025年5月10日
- 実施地域
- 埼玉県三芳町・所沢市
- 参加者
- 東大生地方創生コンソーシアム所属学生 6名
- 実施主体
- 東大生地方創生コンソーシアム
- 共創パートナー
- ミライクエスト
- 主な訪問先
- マルト商事 三芳町工場、所沢アップセンター
- 主なテーマ
- 玉ねぎの加工・保管・流通、1.5次産業、 農家と食品事業者をつなぐ中間事業者、 加工現場の雇用、国産・輸入野菜の使い分け
2025年5月10日、 東大生地方創生コンソーシアムの学生6名が、 埼玉県三芳町と所沢市でフィールドワークを実施しました。
今回のテーマは、 普段の生活からは見えにくい、 農産物の加工と流通について理解することです。
農家が作物を生産する一次産業や、 飲食店・食品メーカーが商品を製造する現場は、 比較的イメージしやすいかもしれません。
一方で、収穫された野菜を集め、 皮をむき、加工し、保管し、 必要な量を安定して事業者へ届ける仕事は、 消費者からは見えにくい部分です。
学生たちは、玉ねぎの加工・流通を行うマルト商事を訪れ、 農業と食品産業の間を支える事業の役割を、 現場から学びました。
農業と食品産業の間を支える「1.5次産業」
三芳町工場では、 マルト商事の取締役・中村哲さんから、 会社の事業内容と玉ねぎ流通の仕組みについて話を伺いました。
説明の中で紹介されたのが、 「1.5次産業」という考え方です。
農産物を生産する一次産業と、 食品を加工・製造する二次産業の間に入り、 農産物を集荷し、加工し、 事業者が使いやすい状態に整えて届ける役割です。
マルト商事では、 玉ねぎを農家から仕入れ、 外食産業や食品事業者の要望に合わせて、 皮むきや保管、流通を行っています。

食卓を支えているのは、農家だけではない
私たちが日常的に食べている野菜は、 農家が育てただけでは、そのまま安定して店や工場へ届くわけではありません。 集荷、加工、保管、品質管理、配送を担う事業者がいることで、 飲食店や食品メーカーは必要な野菜を継続的に使うことができます。
玉ねぎの皮むき加工を、現場で見る
事業説明の後、 学生たちは三芳町工場の加工現場を見学しました。
工場では、 半自動の設備を使って、 玉ねぎの皮をむく作業が行われています。
機械化されている工程であっても、 玉ねぎの状態を確認し、 最後は人の手で整える作業があります。
工場内では、 玉ねぎ特有の刺激によって、 学生たちも涙を流しながら見学しました。
一個の玉ねぎの皮を家庭でむくことと、 大量の玉ねぎを毎日加工し続けることでは、 必要な体力や設備、作業環境が大きく異なります。

機械化しても、人の仕事はなくならない
マルト商事では、 新たなレーザーを利用した設備の導入も予定されていました。
加工工程を効率化し、 作業者の負担を減らし、 より多くの玉ねぎを安定して加工するための取り組みです。
一方で、野菜には、 大きさ、形、傷、硬さなどの個体差があります。
機械ですべてを均一に処理することは難しく、 最終的な確認や調整には、 人の判断や技術が必要です。
学生たちは、 機械化と人の仕事を対立するものとしてではなく、 互いに補い合う関係として考える機会を得ました。
加工は、単なる手間ではなく付加価値
玉ねぎの皮をむき、 すぐに調理や製造に使える状態へ整えることで、 飲食店や食品事業者の作業負担を減らすことができます。 加工によって生まれる時間の短縮、品質の安定、使いやすさも、 商品の価値の一部です。
巨大冷蔵庫が支える、野菜の安定供給
三芳町工場の見学後、 学生たちは所沢市のアップセンターへ移動しました。
アップセンターは市場に隣接し、 加工された玉ねぎや輸入玉ねぎ、 その他の野菜を保管・加工する拠点です。
施設内には大きな冷蔵庫があり、 大量の野菜が温度管理された状態で保管されていました。
農産物は、 天候や収穫時期によって生産量が変動します。
一方、飲食店や食品工場では、 毎日一定量の野菜が必要になります。
必要な時期に必要な量を供給するためには、 加工だけでなく、 安全に保管する設備と在庫管理が欠かせません。

国産と輸入、それぞれの役割を考える
アップセンターでは、 中国産の玉ねぎも保管されていました。
輸入玉ねぎは、 すでに皮がむかれた状態で搬入され、 必要に応じて保管・加工されます。
一般的に輸入玉ねぎは、 国産玉ねぎよりも価格が安い傾向があります。
一方、加熱せず生で使用する場合などには、 価格が少し高くても国産を選ぶ事業者が多いという話もありました。
価格だけではなく、 品質、味、用途、安全性に対する印象、 供給の安定性などを総合して、 事業者が使い分けています。

「国産か輸入か」ではなく、用途と価値で考える
安価で大量に確保しやすい輸入品と、 味や品質、安心感が評価される国産品。 どちらか一方を単純に選ぶのではなく、 商品の用途や顧客が求める価値に合わせて使い分けることが、 食品事業の安定につながります。
農家を守る中間事業者の役割
参加した学生の多くは、 フィールドワークの前まで、 中間事業者に対して 「安く仕入れて高く売る存在」という印象を持っていました。
しかし、マルト商事の話を聞き、 その認識は大きく変化しました。
マルト商事は、 農家から農産物を継続的に買い取り、 加工や品質管理を行ったうえで、 外食産業や食品事業者へ届けています。
一定量を継続的に購入する事業者がいることは、 天候や市場価格の影響を受けやすい農家にとって、 経営の安定につながります。
中間事業者は、 単に商品を右から左へ動かす存在ではありません。
生産者と利用者の間で、 価格、量、品質、加工方法、納期を調整し、 両者が継続的に取引できる仕組みをつくる役割を担っています。
「高く仕入れ、高く売る」という考え方
農家から安く買うことだけを目指せば、 生産者の収入は不安定になり、 農業を続けることが難しくなります。
品質の良い農産物を適正な価格で仕入れ、 加工や安定供給という価値を加え、 その価値を理解する取引先へ届ける。
「高く仕入れ、高く売る」ことによって、 生産者、加工事業者、利用者のそれぞれが 継続できる関係をつくる考え方です。
学生たちは、 中間に入る事業者が、 農業の不安定さを緩和する役割を持つことに気づきました。
中間に入るからこそ、生み出せる価値がある
生産者だけでも、 飲食店や食品メーカーだけでも解決できない、 量、価格、品質、加工、保管の調整。 異なる立場の間に入り、 双方が継続できる関係を設計すること自体が、 専門的な事業価値になります。
加工現場を支える外国籍人材と人手不足
アップセンターを含む加工現場では、 多くの外国籍の方が働いていました。
レポートでは、 従業員の約7割が外国籍であるという話が、 参加学生の印象に残ったことが記されています。
農業の担い手不足はよく知られていますが、 農産物を加工し、保管し、流通させる現場でも、 人材の確保は大きな課題です。
私たちが普段利用する外食や加工食品は、 農家だけでなく、 こうした加工・物流現場で働く人々によって支えられています。
外国籍人材が重要な役割を担う一方で、 安全な労働環境、教育、言語、地域での生活支援なども、 今後考える必要があります。
少数精鋭で、全国規模の食を支える
学生が驚いたことの一つが、 マルト商事の対外的な営業や調整を担う人数の少なさでした。
大規模な会社でなければ、 全国的な仕事はできないと思っていた学生もいました。
しかし、マルト商事は、 玉ねぎ加工と流通という専門分野で知識と実績を蓄積し、 全国チェーンの事業者とも取引しています。
会社の規模が小さくても、 特定分野の専門性を磨き、 顧客から信頼される仕組みを持つことで、 大きな市場を支えることができます。
学生たちは、 中小企業の価値を、 「小さな仕事をする会社」ではなく、 「専門分野で欠かせない役割を担う会社」として 捉え直しました。
学生が現場から感じたこと
玉ねぎの皮むき工場がなぜ必要なのか疑問に思っていましたが、 工場の規模や効率、 手作業で大量にむく大変さを知り、 加工サービスが求められる理由を理解できました。
普段食べている玉ねぎや野菜が、 農家だけでなく、 加工や流通を担う人々の努力によって支えられていることを実感しました。
中間事業者は安く買って高く売る存在だと思っていましたが、 農産物を継続的に買い取ることで、 農家の収入安定にも貢献していることを知りました。
加工用野菜の価格が安定することは、 消費者や食品事業者だけでなく、 生産者にとってもメリットがあると分かりました。
少ない人数でも専門性を高めることで、 全国規模の企業と仕事ができることを知り、 中小企業に対する見方が変わりました。
この活動から生まれたもの
OUTPUT|学生たちが形にした成果
- マルト商事の事業内容と玉ねぎ流通に関するヒアリング
- 一次産業と二次産業をつなぐ「1.5次産業」の学習
- 三芳町工場における玉ねぎ皮むき工程の見学
- 半自動加工設備と人の手による作業の確認
- 新たなレーザー加工設備の導入計画に関する情報収集
- 所沢アップセンターの大型冷蔵庫の見学
- 加工済み野菜の保管と在庫管理に関する学習
- 中国産皮むき玉ねぎの保管状況の見学
- 国産・輸入玉ねぎの価格と用途に関するヒアリング
- 加工現場における外国籍人材と雇用課題の確認
- 中間事業者が農家の経営安定に果たす役割の学習
- 学生によるフィールドワーク報告書の作成
OUTCOME|学生と地域に生まれた変化
- 学生が農産物の加工・流通を食の重要な工程として理解した
- 玉ねぎ加工が飲食店や食品事業者の負担軽減につながると学んだ
- 機械化と人の技術が補完し合う加工現場への理解が深まった
- 保管と在庫管理が野菜の安定供給を支えることを理解した
- 国産品と輸入品を用途や価値で使い分ける視点を得た
- 中間事業者に対する固定的なイメージが変化した
- 中間事業者が生産者の収入安定に貢献することを学んだ
- 加工・流通現場でも深刻な人手不足があることを知った
- 外国籍人材が日本の食の供給を支えていることを実感した
- 中小企業が専門性によって全国規模の市場を支えることを理解した
IMPACT|これから地域に育てていく可能性
- 農業・加工・流通・外食を横断して学ぶ食産業フィールドワークの形成
- 大学生による農産物流通や中間事業者に関する継続的な調査
- 加工設備の省力化・自動化に関する企業と大学の共同研究
- 機械化と働きやすさを両立する食品加工現場の改善
- 農家からの安定調達による生産者の経営基盤強化
- 国産農産物の価値を適正価格で届ける流通モデルの拡大
- 加工・保管技術による食品ロス削減と需給調整
- 外国籍従業員が働きやすい教育・生活支援環境の整備
- 加工・流通業を地域の仕事として伝えるキャリア教育の展開
- 専門性を持つ中小企業と学生をつなぐ実践型学習の拡大
- 三芳町・所沢市を食のサプライチェーンを学ぶフィールドへ発展させる可能性
農業と食卓の「間」にある仕事を見る
今回のフィールドワークでは、 玉ねぎという身近な食材を通して、 食卓へ届くまでの見えにくい工程を学びました。
農家が玉ねぎを育て、 マルト商事が集荷し、加工し、保管し、 飲食店や食品メーカーが料理や商品として提供する。
それぞれの仕事は独立しているのではなく、 一つのサプライチェーンとしてつながっています。
その中で、中間に入る事業者は、 量、品質、価格、加工方法、納期を調整し、 生産者と利用者の双方が継続できる関係を支えています。
地域産業を考えるとき、 生産者や最終商品だけに注目するのではなく、 その間を埋める人や企業の役割を見ることも重要です。
普段は見えない仕事を現場で知ることで、 学生たちは、食と農業をより立体的に捉えられるようになりました。
東大生の挑戦に寄り添う、ミライクエストの伴走支援
本活動の企画、訪問、見学、ヒアリングを主体的に担ったのは、 東大生地方創生コンソーシアムの学生たちです。
学生自身が、 普段は見えにくい加工・流通に問いを持ち、 企業の現場を訪れ、 食産業を支える仕事について学びました。
ミライクエストは、 東大生地方創生コンソーシアムの共創パートナーとして、 学生たちの主体性を尊重しながら、 現場で得た学びが次の調査や実践へつながるよう伴走しています。
大切にしているのは、 ミライクエストが学生に答えを与えることではありません。
学生が自分自身の関心から問いを持ち、 企業や地域の方との対話を通して考えを深め、 自分たちの言葉で次の行動をつくれる環境を整えることです。
一度のフィールドワークを一過性の経験で終わらせず、 次の訪問、研究、実践、 企業や地域との継続的な関係へつなげていくこと。
それが、ミライクエストの伴走支援の役割です。
地域と一緒に、人と事業を創る研究所
ミライクエストは、次世代、企業、行政、大学、地域をつなぎ、 現場で生まれた問いや学びを、 次の調査、実践、研究、事業へつなげていきます。
共創パートナー: ミライクエスト
実施日: 2025年5月10日
実施地域: 埼玉県三芳町・所沢市
参加者: 東大生地方創生コンソーシアム所属学生6名
主な訪問先: マルト商事 三芳町工場、所沢アップセンター