ぶどう山椒発祥の地を歩き、 中間支援団体から移住・就業支援の現場を学び、 日本農業遺産の棚田や空海ゆかりの文化資源を巡る。 東京大学の学生4名が和歌山県有田川町を訪れ、 地域に眠る魅力を見つけるだけでなく、 それを実際の活動へ変える人と仕組みについて考えました。
本記事では、東大生地方創生コンソーシアムの学生たちが主体となって実施した活動を、共創パートナーであるミライクエストの視点から紹介します。
プロジェクト概要
- 事業名
- 和歌山・有田川フィールドワーク2026
- 実施期間
- 2026年5月23日~5月24日
- 実施地域
- 和歌山県有田川町
- 参加者
- 東大生地方創生コンソーシアム所属学生 4名
- 実施主体
- 東大生地方創生コンソーシアム
- 共創パートナー
- ミライクエスト
- 主な協力者
- 海老原さん、白川さん、岩本さん
- 主な訪問先
- 有田川町移住就業支援拠点施設しろにし、 しみず温泉、大和屋、ぶどう山椒発祥の地、 あらぎ島、岩坂観音、雨錫寺阿弥陀堂、 蔵王橋、生石高原
- 主なテーマ
- ぶどう山椒、一次産業、移住・定住支援、 中間支援、地域資源、棚田、文化資源、 関係人口、実行を支える人材と資金
2026年5月23日から24日まで、 東大生地方創生コンソーシアムの学生4名が、 和歌山県有田川町でフィールドワークを実施しました。
今回の訪問先となった清水地区は、 ぶどう山椒発祥の地として知られ、 現在も有田川町は日本一の山椒生産量を誇ります。
活動のきっかけは、 学生たちが3月に紀の川市で実施したプロジェクトで、 ぶどう山椒農家の海老原さんと出会ったことでした。
海老原さんから、 まちづくり団体で活動する白川さんを紹介していただき、 一次産業の現場と、 その地域を内側から動かす人々に会う 2日間のフィールドワークが実現しました。
ぶどう山椒の畑や棚田を見学するだけではなく、 移住・就業支援、 温泉施設の運営、 文化資源の活用、 地域内外の人をつなぐ中間支援について学びました。
中間支援団体「しろにし」から、地域の現在を学ぶ
初日に訪れたのは、 有田川町移住就業支援拠点施設「しろにし」です。
ここで学生たちは、 海老原さん、白川さん、岩本さんと合流し、 有田川町や清水地区の概要、 まちづくりの現状について話を伺いました。
約3時間にわたる講義では、 移住者を受け入れるための拠点整備や、 地域に必要な仕事と人をつなぐ取り組み、 「レスキュー隊」と呼ばれる活動などが紹介されました。
白川さんは、 民間企業や町役場での経験を経て、 人事制度、産業、移住・定住促進に携わり、 現在は中間支援団体の活動を主導しています。
行政、民間、地域住民という 複数の立場を経験してきたからこそ見える課題や、 組織の間に立って調整する役割について、 具体的な話を聞くことができました。

なぜ、清水地区ではなく二川に拠点を置いたのか
学生の振り返りで特に印象に残ったのが、 しろにしの拠点を、 清水地区ではなく二川に設けた理由です。
既に公的施設が多く存在する場所へ 新たな施設を加えるのではなく、 集落ごとの気風や関係性を踏まえ、 あえて別の場所を選ぶ。
地域全体を同じ条件で扱うのではなく、 それぞれの集落の歴史や人間関係を理解したうえで、 拠点の役割と場所を決めています。
行政主導の計画だけでは取りこぼしやすい視点を取り入れ、 必要な衝突を避けずに、 活動を更新し続ける姿勢が見えてきました。
中間支援は、人と制度の間を埋める仕事
地域住民の思い、 行政の制度、 移住希望者の期待、 事業者が必要とする人材。 それぞれの立場を理解し、 実際に動ける形へ調整することが、 中間支援団体の重要な役割です。
提案は足りている。必要なのは、実行する人と原資
しろにしでの対話では、 地域に対する提案やコンサルティングは 既に十分にあるという話もありました。
新しいアイデアが不足しているというより、 それを実際に動かす人手や資金、 継続的に担う体制が不足している。
学生の一人は、 自身の活動経験とも重なる内容として、 強い共感を持ったと振り返っています。
地域外から訪れる学生も、 新しい提案を持ち込むだけでなく、 既にある構想を調べ、 発信し、 実行を手伝う役割を考える必要があります。
地域に必要なのは、アイデアだけではない
企画書や提案を増やすだけでは、 地域の現実は変わりません。 誰が実行するのか、 どこから資金を得るのか、 どのように続けるのかまで考えて初めて、 構想は地域の活動へ変わります。
温泉施設の運営から、ターゲット設計を学ぶ
しろにしでの講義後には、 2024年にオープンした「しみず温泉」を訪れました。
海老原さんと白川さんは、 施設のオープンやマーケティングにも関わっています。
入浴しながら、 温泉施設をどのような利用者へ届けようとしているのか、 運営の考え方を伺いました。
施設にはスチームサウナなどが設けられ、 女性利用者へのアプローチも意識されています。
地域に施設をつくるだけでなく、 誰に来てもらいたいのかを考え、 設備、見せ方、情報発信を組み合わせることの重要性を学びました。

良い施設をつくるだけでなく、誰へ届けるかを考える
地域資源を活用した施設であっても、 存在を知られず、 利用者へ価値が伝わらなければ続きません。 ターゲットを考え、 必要な設備と発信を設計することも、 地域事業の大切な仕事です。
古民家に滞在し、地域で動く人と食卓を囲む
初日の宿泊先は、 古民家屋敷の大和屋です。
夕食にはオードブルを囲み、 海老原さん、白川さん、岩本さんと交流しました。
移住したきっかけや、 和歌山県の支援体制、 地域で活動する中で感じていることなどを、 ざっくばらんに伺いました。
プログラムとして設定された講義だけでなく、 食卓を囲んで長い時間を共にすることで、 それぞれの経験や価値観に触れることができました。
夜には近くの川へ出かけ、 ホタルを観察する時間も生まれました。

滞在することで、地域の日常に近づく
視察先を巡って帰るだけではなく、 地域に泊まり、 食事をし、 夜の自然に触れる。 暮らしの時間を少し共有することで、 地域との距離が縮まり、 表面的な見学を越えた対話が生まれます。
ぶどう山椒の畑で、香りと生産の現場に触れる
2日目の朝には、 大和屋の前にあるぶどう山椒畑を見学しました。
海老原さんから、 ぶどう山椒という作物の特徴や、 栽培へ至った経緯、 その中で経験した苦労について説明を受けました。
葉を擦るだけで爽やかな香りが広がり、 学生たちはぶどう山椒を間近で観察しました。
その後、 清水地区の山中にある ぶどう山椒発祥の地を訪れました。
現地には、 空海が座ったと伝えられる岩もあり、 農産物の歴史と地域の文化が重なっていることを知りました。

新規就農者の意欲と、地域の受け入れの間にある課題
農業へ新しく挑戦したい人がいても、 その意欲だけで地域へ定着できるとは限りません。
土地や技術、 販路、 住まいだけでなく、 地域での人間関係や受け入れ方も関係します。
学生の振り返りでは、 新規就農者の意欲と、 地域の受け入れ状況との間にある現実や、 地域住民と訪問する大学生の意識の違いについても 学んだことが記されています。
人の気持ちが介在する課題は、 制度だけでは解決できません。
時間をかけて相互理解を深め、 間に立って関係を調整する人が必要です。
移住や就農は、制度だけでは成立しない
支援金や研修制度があっても、 地域で安心して暮らし、 働き続けられる関係がなければ定着は難しくなります。 新しく来る人と地域住民の双方を理解し、 関係をつなぐ伴走者が重要です。
ぶどう山椒のオーナー制度という構想
海老原さんからは、 ぶどう山椒のオーナー制度を始めようとしているという 構想も紹介されました。
海老原さんは以前、 新潟の棚田オーナー制度に関わった経験があります。
その経験を生かし、 有田川町でも、 地域外の人がぶどう山椒と継続的に関われる仕組みを つくろうとしています。
商品を購入するだけでなく、 生産地を訪れ、 農家と関係を持ち、 作物の成長や地域の文化を知る。
オーナー制度は、 農産物の販売と関係人口づくりを 結びつける可能性があります。
学生からは、 東京を拠点とした宣伝や、 SNSを活用した情報発信、 ターゲット設定へ関われるのではないかという アイデアも生まれました。
農産物を売るだけでなく、関係を育てる
ぶどう山椒という商品だけでなく、 生産者、畑、歴史、地域の体験まで届ける。 購入者を一度限りの顧客ではなく、 地域へ繰り返し関わる仲間へつなげることができます。
日本農業遺産「あらぎ島」の棚田を見る
道の駅あらぎの里で昼食を取った後、 学生たちは「あらぎ島」を訪れました。
あらぎ島は、 有田川の蛇行に沿って扇形に広がる棚田で、 日本農業遺産にも選ばれています。
訪問時は田植えの時期で、 水が張られた田が光を映し、 水鏡のような風景が広がっていました。
棚田は美しい景観であると同時に、 現在も農作業によって維持されている生産の場です。
景観を観光資源として活用するだけでなく、 誰が農地を守り、 作業を続けるのかまで考える必要があります。

景観を残すには、農業を続ける人が必要
棚田の美しさは、 自然だけで生まれたものではありません。 土地を整え、 水を引き、 毎年作物を育てる人の仕事によって維持されています。 観光と農業を分けずに考える必要があります。
空海ゆかりの文化資源を、山中で見つける
午後には、 岩坂観音や雨錫寺阿弥陀堂、 蔵王橋などを巡りました。
岩坂観音は、 山中深くにある空海ゆかりの寺院です。
人気の少ない山奥にありながら、 荘厳な雰囲気を持ち、 有田川町と高野山とのつながりを感じられる場所でした。
有名な観光地として広く知られていなくても、 地域には歴史や文化を伝える資源が残されています。
ただし、 それらを観光資源として活用するには、 アクセス、 案内、 保存、 安全性、 情報発信について考える必要があります。

知られていない魅力を、どう届けるか
地域に価値ある場所が存在していても、 知られなければ訪問や保全にはつながりません。 何が魅力なのかを言葉にし、 適切な相手へ届ける情報発信も、 地域資源を生かすための重要な活動です。
東京で関心を生み、地域への入口をつくる
学生の振り返りでは、 都道府県の東京事務所が担う役割についても 気づきがありました。
移住推進というと、 地域へ来た人にどのような体験を提供するかを 考えがちです。
しかしその前に、 東京など都市部にいる人へ地域を知ってもらい、 関心を持ってもらう必要があります。
地域へ来てもらうための入口を、 都市側でどのようにつくるのか。
学生や大学、 SNS、 イベント、 東京事務所など、 地域外の接点を活用することが重要です。
東大生地方創生コンソーシアムにも、 東京で有田川町の魅力を伝え、 地域へ関心を持つ人を増やす役割が考えられます。
生石高原から、2日間の地域を見渡す
しろにしで振り返りと発表を行った後、 最後に生石高原を訪れました。
生石高原は、 有田川町と紀美野町にまたがる景勝地です。
高原から紀伊山地を望み、 大阪平野と有田川町を見下ろしながら、 2日間のフィールドワークを締めくくりました。
ぶどう山椒、 温泉、 棚田、 文化資源、 自然景観、 そして地域で動く人々。
有田川町には多くの魅力があります。
それらを個別に紹介するだけでなく、 地域を訪れる理由や継続的な関係へ どのようにつなげるかが、 今後の課題として見えてきました。

学生が現場から感じたこと
行政、民間、中間支援という多様な立場を経験した方から、 地域の現状を聞けたことが印象に残りました。 行政主導では取りこぼしてしまう視点を取り入れ、 衝突を恐れずに活動を更新する姿勢を学びました。
ぶどう山椒のオーナー制度について、 東京からの情報発信やSNSでの宣伝に 自分たちも関われる可能性を感じました。 地域で現在進行形の新しい動きに、 自分も参加したいと思いました。
新規就農者の意欲と地域の受け入れ状況の差や、 地域住民と訪問する大学生の意識の違いを知りました。 人の気持ちが関わる課題へ取り組む難しさと、 間に立つ人の必要性を感じました。
地域への提案やコンサルティングは既に十分にあり、 実際に動くための人手や原資が必要だという話に共感しました。 今後は提案だけで終わらず、 実行へつながる形で関係を続けたいと思います。
この活動から生まれたもの
OUTPUT|学生たちが形にした成果
- 有田川町移住就業支援拠点施設しろにしの見学
- 移住拠点整備やレスキュー隊など中間支援の取り組みに関する講義
- 清水地区のまちづくりと集落ごとの特徴に関するヒアリング
- しみず温泉の施設運営・マーケティングに関する学習
- 大和屋での地域関係者との夕食交流
- 清水地区でのホタル観察
- ぶどう山椒畑の見学と作物の特徴に関する学習
- ぶどう山椒発祥の地と空海ゆかりの巨石の見学
- ぶどう山椒オーナー制度構想に関する意見交換
- 日本農業遺産「あらぎ島」の棚田見学
- 岩坂観音、雨錫寺阿弥陀堂、蔵王橋の訪問
- 有田川町の地域資源の活用方法に関する検討
- しろにしでの参加者による振り返り発表
- 生石高原の訪問
- 学生によるフィールドワーク報告書の作成
OUTCOME|学生と地域に生まれた変化
- 学生が一次産業とまちづくりを一体で捉える視点を得た
- 行政・民間・住民の間をつなぐ中間支援の役割を理解した
- 地域ごとの気風を踏まえた拠点づくりの重要性を学んだ
- 地域事業には提案だけでなく、人手・資金・実行体制が必要だと理解した
- 温泉施設の運営にターゲット設計とマーケティングが必要だと学んだ
- ぶどう山椒を農産物と文化資源の両面から理解した
- 新規就農者と地域住民の関係づくりの難しさに気づいた
- オーナー制度による関係人口づくりの可能性を知った
- 棚田の景観が農業者の継続的な作業によって守られていると理解した
- 東京から地域への関心を生み出す情報発信の役割に気づいた
- 学生の中に有田川町の活動へ継続的に関わりたいという意識が生まれた
IMPACT|これから地域に育てていく可能性
- 学生と有田川町が継続的に関わるフィールドワークの形成
- ぶどう山椒オーナー制度の具体化と参加者募集への学生協力
- 東京や大学を起点としたぶどう山椒・有田川町の情報発信
- SNSを活用した都市部のターゲット層への広報
- ぶどう山椒の栽培・収穫・加工を学ぶ体験プログラムの開発
- 新規就農者と地域住民をつなぐ中間支援の充実
- しろにしと学生による移住・就業支援の共同調査
- あらぎ島や空海ゆかりの文化資源をつなぐ周遊企画の検討
- 地域資源の魅力を記録する学生視点の地域アーカイブづくり
- 地域の構想を実行する人材・資金を集める仕組みの検討
- 有田川町を、一次産業と中間支援を学ぶ実践フィールドへ発展させる可能性
地域資源を、実際の動きへ変える
今回のフィールドワークでは、 ぶどう山椒、 温泉、 棚田、 寺院、 高原という多様な地域資源を訪れました。
しかし、 魅力的な資源が存在するだけで、 地域の活力につながるわけではありません。
誰へ届けるのかを考え、 情報を発信し、 人を招き、 受け入れる体制を整える。
新しく来た人と地域住民の間に立ち、 互いの考えを調整する。
構想を実行するための人手と資金を確保し、 活動を続ける。
地域資源を生かすためには、 多くの地道な仕事が必要です。
学生たちにとって今回の訪問は、 地域の魅力を見つけるだけでなく、 それを動かす人と仕組みを知る機会となりました。
東京での情報発信、 ぶどう山椒オーナー制度への協力、 次回のフィールドワークなど、 学生が担える役割も見え始めています。
提案するだけで終わらず、 地域の方と一緒に実行へ進むこと。
それが、 今回のフィールドワークから始まる 次のステップです。
東大生の挑戦に寄り添う、ミライクエストの伴走支援
本活動の企画、訪問、対話、振り返りを主体的に担ったのは、 東大生地方創生コンソーシアムの学生たちです。
学生自身が地域で活動する方との出会いを起点に、 ぶどう山椒の畑や地域拠点を訪れ、 一次産業とまちづくりの現場を学びました。
ミライクエストは、 東大生地方創生コンソーシアムの共創パートナーとして、 学生たちの主体性を尊重しながら、 現場で得た学びが次の調査や実践へつながるよう伴走しています。
大切にしているのは、 ミライクエストが学生に答えを与えることではありません。
学生が自分自身の関心から問いを持ち、 地域の方との対話や体験を通して考えを深め、 自分たちの言葉で次の行動をつくれる環境を整えることです。
一度のフィールドワークを一過性の体験で終わらせず、 次の訪問、情報発信、研究、実践、 地域との継続的な関係へつなげていくこと。
それが、ミライクエストの伴走支援の役割です。
地域と一緒に、人と事業を創る研究所
ミライクエストは、次世代、企業、行政、大学、地域をつなぎ、 現場で生まれた問いや学びを、 次の調査、実践、研究、事業へつなげていきます。
共創パートナー: ミライクエスト
実施期間: 2026年5月23日~5月24日
実施地域: 和歌山県有田川町
参加者: 東大生地方創生コンソーシアム所属学生4名
主な訪問先: 有田川町移住就業支援拠点施設しろにし、 しみず温泉、大和屋、ぶどう山椒発祥の地、 あらぎ島、岩坂観音、生石高原