吊り下げ型のトマト栽培と海外の農法を取り入れたキウイ圃場を歩き、 AI時代の農業について経営者と語り合い、 南伊勢の海ではマダイの出荷、競り、養殖の現場へ入る。 東京大学の学生6名が三重県の農業と漁業の最前線を訪れ、 効率化と人の知恵、革新と伝統を両立させる 「AND思考」から、一次産業の未来を考えました。
本記事では、東大生地方創生コンソーシアムの学生たちが主体となって実施した活動を、共創パートナーであるミライクエストの視点から紹介します。
プロジェクト概要
- 事業名
- 三重・浅井農園フィールドワーク2026
- 実施期間
- 2026年5月9日~5月10日
- 実施地域
- 三重県津市・南伊勢町
- 参加者
- 東大生地方創生コンソーシアム所属学生 6名
- 実施主体
- 東大生地方創生コンソーシアム
- 共創パートナー
- ミライクエスト
- 主な訪問先
- 浅井農園、塩梅食堂、まるきんまる、贄浦漁港
- 主な活動
- トマト・キウイ栽培の視察、 農業経営者とのディスカッション、 一次産業の担い手との交流、 マダイの出荷・競り・養殖現場の視察
- 主なテーマ
- スマート農業、AIによる効率化、 現場の暗黙知、伝統産業の継承、 マダイ養殖、事業基盤、 一次産業における価値創造
2026年5月9日から10日まで、 東大生地方創生コンソーシアムの学生6名が、 三重県津市と南伊勢町でフィールドワークを実施しました。
今回の活動は、 コンソーシアムの学生と浅井農園の浅井社長が、 農林水産省のイベントで出会ったことをきっかけに企画されました。
浅井農園は、 自社で研究開発に取り組みながら、 トマトやキウイの栽培を進める農業法人です。
全国的に見ても先進的な取り組みを行う現場を訪れ、 技術を導入するだけでなく、 事業として農業を持続させるための考え方を学ぶことが、 今回の大きな目的となりました。
さらに2日目には、 南伊勢町でマダイ養殖を行う「まるきんまる」を訪問。
陸と海、 農業と漁業という異なる一次産業の現場を行き来しながら、 技術、効率、経営、伝統、 そして人が現場に入り続ける意味を考える2日間となりました。
効率化を前提に設計された、浅井農園の栽培現場
初日は、 津市にある浅井農園の トマト園地とキウイ圃場を視察しました。
圃場では、 「より効率化できるところはどこか」という視点から 栽培方法や作業環境が設計されています。
トマト栽培では、 作物や作業の状況に合わせて管理しやすい 吊り下げ型の栽培方法が取り入れられていました。
生産量を増やすだけでなく、 作業者が動きやすく、 状態を確認しやすい環境をつくることで、 日々の負担を減らしていきます。
キウイ圃場では、 ニュージーランドの農園を参考にした栽培方法が 取り入れられていました。
国内で従来行われてきた方法だけにとらわれず、 海外の事例を研究し、 自分たちの環境へ取り入れる姿勢が見られました。

スマート農業は、作業を楽にするだけではない
AIやデータを農業へ活用する目的は、 単に人の仕事を減らすことではありません。
作業者の身体的な負担を軽減し、 経験の少ない人でも現場へ入りやすくし、 産業として農業を続けられる可能性を広げることにあります。
担い手が減少する中で、 熟練者だけが担ってきた作業をどのように整理し、 技術やデータで補える部分を増やしていくのか。
学生たちは、 スマート農業を機械の導入としてだけでなく、 農業へ参加する人を増やし、 長期的な持続可能性を高める仕組みとして捉えました。
効率化は、人を現場から追い出すためではない
AIや機械によって負担を減らしながら、 人にしかできない判断や創意工夫へ時間を使えるようにする。 技術を人の代わりとして考えるのではなく、 人が一次産業に関わり続けるための支えとして捉えることが重要です。
浅井さんとの対話から学ぶ「AND思考」
圃場視察後には、 浅井農園の事業概要について説明を受け、 学生と浅井さんによるフリーディスカッションを行いました。
話題は、 AI時代の効率化、 伝統産業の継承、 東京から農業へ関わる方法、 世界的な農業協調など、 学生と浅井さんの関心に応じて広がりました。
中でも学生の印象に残ったのが、 「AND思考」と「OR思考」の違いです。
効率化か、伝統か。
AIか、人の経験か。
地域の産業か、世界との連携か。
どちらか一方を選ぶのではなく、 両方を成立させる方法を考える。
AIによって作業負担を軽減しながら、 現場の暗黙知やコミュニティも継承するという姿勢に、 学生たちは一次産業の新しい可能性を感じました。

「どちらか」ではなく、「どちらも」を考える
効率化を進めるから伝統を手放すのではなく、 技術によって余力を生み、 人の知恵や地域の関係を次へつなぐ。 相反するように見える価値を両立させる発想が、 一次産業の新しい経営を生み出します。
最先端を、そのまま真似しない
浅井農園では、 AIやスマート農業、 海外の栽培方法など、 新しい技術や知識を積極的に取り入れています。
一方で、 最新の設備や方法を導入すれば、 すべての農業者が同じ成果を得られるわけではありません。
農地の規模、 気候、 作物、 人材、 投資できる資金は、 事業者によって異なります。
重要なのは、 成功した農業法人の方法をそのまま真似することではなく、 自分たちの規模や地域に合った形へ 考え直すことです。
浅井農園の革新性と同時に、 会社の規模に合った丁寧で現実的な経営も、 学生たちの印象に残りました。
先進事例は、答えではなく考える材料
優れた取り組みをそのまま移植するのではなく、 なぜ成功しているのかを読み解き、 自分たちの条件に合わせて組み直す。 主体的に選び、試すことが、 地域ごとの持続可能な一次産業につながります。
農業と漁業の担い手が、食卓を囲んで語り合う
初日の夜には、 浅井農園の皆さんと、 2日目に訪問する「まるきんまる」の純さんを交え、 塩梅食堂で懇親会を行いました。
日中の視察やディスカッションの熱量を引き継ぎながら、 一次産業の仕事や経営だけでなく、 幸せとは何か、 どのような人生を生きるのかという話題にも発展しました。
農業と漁業という異なる分野で 挑戦を続ける人々の思いや哲学に、 食卓を囲みながら触れる時間となりました。
技術や事業モデルだけではなく、 その判断の背景にある価値観を知ることで、 学生たちの学びもより深まりました。

経営者の判断には、その人の哲学が表れる
どの技術を導入し、 どの規模で事業を進め、 何を守り、何を変えるのか。 経営判断の背景には、 仕事や人生をどのように捉えているかという 一人ひとりの価値観があります。
早朝の出荷と競りから、漁業の流れを知る
2日目は南伊勢町へ移動し、 「まるきんまる」の漁業現場を訪れました。
早朝には、 マダイの出荷作業を見学しました。
その後、 贄浦漁港で行われる競りを視察し、 育てられた魚が市場へ出ていく流れを学びました。
漁業の現場では、 道具の置き方、 人の動き、 作業の順序までが細かく整えられていました。
限られた時間の中で、 魚の状態を守りながら 安全に作業を進めるための工夫です。
効率化とは、 機械を増やすことだけではありません。
現場の経験から、 最も動きやすい順序や配置を考え、 無駄を減らしていくことも重要です。
海の上で、マダイ養殖の現場を見る
出荷と競りの視察後には、 船でマダイの養殖場へ向かいました。
海上には生け簀が設置され、 多くのマダイが育てられています。
養殖業では、 餌、水温、魚の状態、出荷時期など、 多くの情報を見ながら管理する必要があります。
参加学生の振り返りでは、 AIを活用する養殖現場を通して、 テクノロジーが生産効率や収量を高めるだけでなく、 一次産業へ関わるハードルを下げる可能性が指摘されました。
一方で、 海や魚の状態は常に同じではありません。
データや機械だけに任せるのではなく、 人が現場へ入り、 小さな変化を感じ取り、 判断し続ける必要があります。

人が現場に入り続ける意味
農業でも漁業でも、 技術によって多くの作業を効率化できます。
しかし、 すべてを機械へ置き換えることはできません。
作物や魚の状態を見て、 普段との違いに気づき、 必要な対応を選ぶ。
その判断には、 現場で積み重ねてきた経験と感覚が必要です。
テクノロジーによって人を不要にするのではなく、 人の判断を支え、 より重要な仕事へ集中できる環境をつくる。
浅井農園とまるきんまるの双方から、 技術と人の役割を分けずに考える姿勢が見えてきました。
データがあっても、現場を知らなければ判断できない
AIやセンサーは、 状況を把握するための大きな助けになります。 しかし、その数値が何を意味するのかを理解し、 実際の作物や魚を見て判断するためには、 現場での経験が欠かせません。
地域の課題を、新しい価値を生む領域として見る
養殖場の視察後には、 まるきんまるの純さんとの フリーディスカッションを行いました。
学生たちにとって特に印象的だったのは、 地域の現状を 「解決すべき負の課題」としてだけ捉えていないことです。
担い手不足や人口減少、 漁業を取り巻く環境の変化は、 確かに地域の課題です。
しかし、 既存の仕組みが変わる時期だからこそ、 新しい事業や価値を生み出せる領域でもあります。
まるきんまるでは、 マダイ養殖を安定した事業基盤としながら、 コワーキングや宿泊など、 新しい取り組みにも挑戦しています。
課題に守りの姿勢で対応するのではなく、 まだ競争相手の少ない 「ブルーオーシャン」として前向きに捉える。
その姿勢が、 学生たちの地方課題に対する見方を大きく変えました。

地域課題を、価値創造の入口へ変える
課題を不足や衰退として見るだけでは、 守るための発想に限られてしまいます。 まだ満たされていない需要や、 これから必要になる役割として捉え直すことで、 新しい事業や働き方を生み出すことができます。
安定した本業が、新しい挑戦を支える
まるきんまるが新しい活動へ挑戦できる背景には、 マダイ養殖という確かな事業基盤があります。
新規事業や地域活動は、 思いだけでは続きません。
収益を生み出す本業があり、 人材や設備を維持できるからこそ、 次の事業へ挑戦する余力が生まれます。
浅井農園も、 最先端の技術を取り入れながら、 自社の規模に合った現実的な経営を行っていました。
革新的であることと、 堅実であることは対立しません。
安定した基盤をつくりながら、 新しい挑戦を積み重ねることが、 一次産業の持続的な成長につながります。
共創の前に、現場と共に生きる「共生」がある
学生の振り返りでは、 地方創生において、 いきなり「共創」を目標にするのではなく、 まず現場の過去と現在を知ることが重要だという 気づきがありました。
短時間の視察だけで、 農業や漁業の課題を理解したことにはなりません。
地域へ繰り返し入り、 作業や暮らしに触れ、 そこで働く人の判断や思いを知る。
その「共生」の段階を重ねた先に、 一緒に新しいものを生み出す 共創の可能性があります。
学生自身の進路が 農業や漁業と直接関係していなくても、 再び三重を訪れ、 現場で何が起きているのかを考え続けることで、 地域や産業との関係を持つことができます。
「共創したい」より先に、現場を知る
外部から新しい提案を持ち込む前に、 地域の歴史、現在の事業、現場の判断を理解する。 相手と同じ場所に立ち、 関係を積み重ねることが、 一方的ではない共創の土台になります。
学生が現場から感じたこと
浅井農園とまるきんまるは、 最新技術を取り入れながら事業を拡大する革新的な法人でした。 一方で、 それぞれの規模に合った安定的で丁寧な経営をしており、 先進事例をそのまま真似するのではなく、 自分たちで考えて新しいことへ挑戦する重要性を学びました。
農水産業を最新技術によって効率化することは、 単に仕事を楽にするためではなく、 長期的な日本の食料問題へ向き合う取り組みでもあると学びました。 自分の進路が一次産業と直接関係しなくても、 当事者意識を持って地域へ関わり続けたいと思いました。
AIによる作業負担の軽減と、 現場の暗黙知やコミュニティの継承を両立する 「AND思考」の重要性を学びました。 効率化と伝統のどちらか一方を選ぶのではなく、 両方を成立させる視点が必要だと感じました。
地域の現状を解決すべき負の課題として見るのではなく、 新しい価値を生み出す領域として前向きに挑む姿勢に 強い刺激を受けました。 地方創生では、 共創の前に現場を知り、 地域へ入り込む共生の段階が必要だと思います。
テクノロジーは生産効率を高めるだけでなく、 農業や漁業に携わるハードルを下げる可能性があります。 同時に、 利益や効率だけでは測れない人間らしさや伝統を どのように受け継ぐかも考える必要があると感じました。
この活動から生まれたもの
OUTPUT|学生たちが形にした成果
- 浅井農園のトマト園地の視察
- 吊り下げ型のトマト栽培と作業環境に関する学習
- 浅井農園のキウイ圃場の視察
- 海外の農法を参考にした栽培方法に関するヒアリング
- 浅井農園の事業概要と研究開発に関する説明の聴講
- AI時代の農業・伝統産業・世界的な農業協調に関するディスカッション
- 浅井農園とまるきんまるの皆さんとの懇親会
- まるきんまるでのマダイ出荷作業の見学
- 贄浦漁港における競りの視察
- マダイ養殖現場の視察
- 養殖現場の道具・作業動線・効率化に関する学習
- 純さんとの地域課題・新規事業に関するディスカッション
- 参加学生による振り返りと報告書の作成
OUTCOME|学生と地域に生まれた変化
- 学生がスマート農業の具体的な現場を理解した
- AI活用を作業負担の軽減と産業の持続可能性から捉えた
- 海外の農法を主体的に取り入れる姿勢を学んだ
- 効率化と伝統を両立させるAND思考を得た
- 先進事例をそのまま模倣せず、規模に合わせる重要性を理解した
- 農業と漁業に共通する技術活用と現場判断の関係を学んだ
- 養殖業を安定した事業基盤として捉える視点を得た
- 地域課題を新しい価値創造の領域として見る意識が生まれた
- 一次産業と直接関係しない進路でも関わり続けられると気づいた
- 共創の前に現場を知る共生が必要だと理解した
IMPACT|これから地域に育てていく可能性
- 浅井農園と学生によるスマート農業の継続的な学習機会
- 農業現場の暗黙知を記録・可視化する研究
- AIと熟練者の判断を組み合わせる農業支援モデルの検討
- 海外の栽培事例と日本の地域農業をつなぐ調査
- 農業法人と学生による新しい人材育成プログラム
- 農業と漁業を横断して学ぶ一次産業フィールドワークの形成
- マダイ養殖とデータ活用に関する継続的な調査
- まるきんまるの養殖・宿泊・交流事業と学生の連携
- 一次産業の経営者同士と学生をつなぐ対話の場づくり
- 学生による三重の農水産業の情報発信
- 一次産業の課題を新規事業の種として捉える共同研究
- 三重県を、技術と人の知恵が共存する一次産業の実践フィールドへ発展させる可能性
効率化と人間らしさを、同時に追求する
今回のフィールドワークでは、 浅井農園のスマート農業と、 まるきんまるの養殖漁業を訪れました。
どちらの現場でも、 技術や設備を積極的に取り入れながら、 事業を効率化し、 持続可能性を高めています。
一方で、 現場に人が入る意味や、 経験から生まれる判断、 地域のコミュニティや伝統も 大切にされていました。
AIか人か。
効率か伝統か。
地域か世界か。
どちらか一方を選ぶのではなく、 両方を成立させる道を探すこと。
そのAND思考が、 一次産業の新しい可能性を開いています。
また、 地域課題を不足や衰退として見るだけでなく、 新しい価値を生み出せる領域として捉えることで、 挑戦の方向も変わります。
学生たちにとって今回の2日間は、 最先端技術を学ぶだけでなく、 一次産業に向き合う人々の哲学と、 自分が地域へ関わり続ける方法を考える機会となりました。
東大生の挑戦に寄り添う、ミライクエストの伴走支援
本活動の企画、訪問、視察、対話、振り返りを 主体的に担ったのは、 東大生地方創生コンソーシアムの学生たちです。
学生自身が農業と漁業の現場へ入り、 経営者や現場の担い手と対話しながら、 一次産業の現在と未来を考えました。
ミライクエストは、 東大生地方創生コンソーシアムの共創パートナーとして、 学生たちの主体性を尊重しながら、 現場で得た学びが次の調査や実践へつながるよう伴走しています。
大切にしているのは、 ミライクエストが学生に答えを与えることではありません。
学生が自分自身の関心から問いを持ち、 地域の方との対話や現場体験を通して考えを深め、 自分たちの言葉で次の行動をつくれる環境を整えることです。
一度のフィールドワークを一過性の体験で終わらせず、 次の訪問、調査、研究、実践、 地域との継続的な関係へつなげていくこと。
それが、ミライクエストの伴走支援の役割です。
地域と一緒に、人と事業を創る研究所
ミライクエストは、次世代、企業、行政、大学、地域をつなぎ、 現場で生まれた問いや学びを、 次の調査、実践、研究、事業へつなげていきます。
共創パートナー: ミライクエスト
実施期間: 2026年5月9日~5月10日
実施地域: 三重県津市・南伊勢町
参加者: 東大生地方創生コンソーシアム所属学生6名
主な訪問先: 浅井農園、塩梅食堂、まるきんまる、贄浦漁港