温泉街を自分の足で歩き、 旅館経営者と行政職員から地域の現状を聞き、 人口約20人の集落で田植え機を操縦する。 東京大学の学生を中心とする8名が山形県鶴岡市の温海地域を訪れ、 観光地と居住地という二つの側面から地域の魅力と課題を捉え、 関係人口としてどのように関わり続けられるのかを考えました。
本記事では、東大生地方創生コンソーシアムの学生たちが主体となって実施した活動を、共創パートナーであるミライクエストの視点から紹介します。
プロジェクト概要
- 事業名
- 山形・温海フィールドワーク2026
- 実施期間
- 2026年5月9日~5月10日
- 実施地域
- 山形県鶴岡市温海地域
- 参加者
- 東大生地方創生コンソーシアム所属学生7名、外部参加者1名
- 実施主体
- 東大生地方創生コンソーシアム
- 共創パートナー
- ミライクエスト
- 主な訪問先
- あつみ温泉街、たちばなや、 温海ふれあいセンター、楯山荘、鍋倉集落
- 主な活動
- 温泉街のまち歩き、旅館経営者へのヒアリング、 温海庁舎職員との意見交換、地域食材を使った料理、 田植え体験、地域住民との交流
- 主なテーマ
- 観光地と居住地、関係人口、人口減少、 観光客減少、空き家、地域振興、 集落の継承、農業の担い手
2026年5月9日から10日まで、 東大生地方創生コンソーシアムの学生を中心とする8名が、 山形県鶴岡市の温海地域で フィールドワークを実施しました。
温海地域には、 長い歴史を持つ「あつみ温泉」があり、 観光地として多くの人を迎えてきました。
一方で、 地域には人口約20人の集落もあり、 住民の暮らしや農業、 集落の継承という課題に向き合っています。
観光客が訪れる場所としての温海と、 人が日々生活する場所としての温海。
今回のフィールドワークでは、 その二つの側面を行き来しながら、 地域の魅力と課題を自分の目で確かめました。
また、 複数の学生が継続的に温海地域へ通っていることから、 移住者でも一度限りの観光客でもない 「関係人口」の役割について考えることも、 活動の大きな目的となりました。
温泉街を歩き、自分の視点で魅力と課題を探す
初日は、 あつみ温泉街を参加者がそれぞれの視点で歩きました。
あらかじめ決められた説明を聞くだけではなく、 自分の足で歩き、 気になった場所や風景、 まちの使われ方を観察しました。
学生からは、 地域の人が利用していると感じられる神社や、 薬局の看板、 川沿いで休める場所などが 温泉街の魅力として挙げられました。
川の両岸から人の姿が見え、 水辺で過ごせる環境にも、 あつみ温泉らしさが感じられました。
一方で、 朝の時間帯に営業している店が少ないことや、 空き家が目立つこと、 初めて訪れた人には観光地らしさが 伝わりにくいという意見も出ました。
温泉地として有名であることと、 実際に歩いて楽しい場所であることは、 必ずしも同じではありません。

初めて訪れた人の違和感も、地域を考える材料になる
地域で暮らす人にとって当たり前の風景も、 外から訪れた人には魅力や課題として映ることがあります。 外部の視点を一方的な評価にするのではなく、 地域の人の思いと組み合わせることで、 新しい改善の入口になります。
温泉旅館の経営から、観光地の現在を知る
温泉街のまち歩き後には、 あつみ温泉の旅館「たちばなや」を訪れました。
専務から、 あつみ温泉全体と、 たちばなや単体の双方について、 入込客数や売上などの具体的な数値を交えて 話を伺いました。
温泉地の魅力を考える際には、 歴史や景観だけでなく、 実際にどれほどの人が訪れ、 どのように旅館が運営されているのかを 知る必要があります。
観光客の減少や社会環境の変化に向き合いながら、 温泉地としてどのような価値を提供し、 次の顧客や担い手とつながるのか。
ヒアリングでは、 関係人口が温泉地域に果たし得る役割や、 今後の展望についても話していただきました。
説明後には参加者全員が一つずつ質問し、 旅館経営と地域全体の関係について 考えを深めました。

一つの旅館と、温泉地全体を分けずに考える
一つの旅館が魅力的であっても、 周囲の店が閉まり、 まちを歩く楽しみが少なければ、 地域全体での滞在価値は高まりにくくなります。
反対に、 温泉街に魅力的な場所や活動が増えても、 宿泊施設が安定して運営できなければ、 観光地として人を受け入れ続けることは困難です。
旅館と温泉街、 観光と地域の暮らしを 一体のものとして考える必要があります。
観光施設の経営と、地域全体の魅力はつながっている
旅館の売上や宿泊者数は、 その施設だけの努力で決まるものではありません。 温泉街の景観、飲食、買い物、交通、 地域の人との出会いなどが重なり、 訪問者の体験が形づくられます。
行政の視点から、温海地域の現在を聞く
温海ふれあいセンターでは、 温海庁舎の職員2名から話を伺いました。
資料をもとに、 温海地域の現状、 庁舎としての取り組み方針、 地域振興事業について説明を受けました。
温海地域では、 人口減少、 観光客の減少、 空き家の増加、 地域活力の低下など、 複数の課題が重なっています。
それぞれを独立した問題として扱うのではなく、 暮らし、産業、観光、交通、 集落の維持を横断して考える必要があります。
ヒアリングは、 行政側から学生へ一方的に説明するだけの場ではありませんでした。
職員の方からも、 なぜ温海地域へ来たのか、 どのような趣味や関心を持っているのかと 質問が投げかけられました。
学生の関心と地域のテーマがどこで重なるのかを 探る対話となりました。

学生の関心と地域の課題を、丁寧につなぐ
行政に関心を持つ学生は、 地域振興や政策について 深く考えることができます。
狩猟に関心があれば、 ジビエや獣害問題を入口に 地域へ関わることもできます。
農業、観光、歴史、食、建築など、 学生一人ひとりの興味は異なります。
地域側が必要とすることだけを学生へ求めるのではなく、 学生の関心と地域の課題が重なる場所を見つけることが、 継続的な関係づくりには重要です。
関係人口は、一つの決まった役割ではない
地域との関わり方に唯一の正解はありません。 自分の専門、趣味、経験から入口を見つけ、 地域の人と相談しながら、 自分なりの役割を育てていくことができます。
地域から届いた食材を、みんなで料理する
初日の夜は、 宿泊先の楯山荘で 参加者全員が料理をしました。
食材には、 当日に地域の方からいただいた アンコウ、イカ、筍などを使いました。
それらを使って二種類の汁物などをつくり、 温海地域の春の味覚を味わいました。
地域の食を、 店で提供される料理として受け取るだけでなく、 自分たちで調理する。
食材の特徴を知り、 作り方を相談し、 一緒に食卓を囲む過程で、 参加者同士の会話も自然に生まれました。
地域の自然の豊かさを 味覚から感じるとともに、 新入生を含む参加者の関係を深める時間となりました。

地域の食は、自然と人の関係を伝える
旬の食材には、 その土地の海や山、 季節、人々の暮らしが表れています。 食材を受け取り、 自分たちで料理することで、 観光だけでは見えない地域の豊かさに触れることができます。
人口約20人の鍋倉集落で、田植えを体験する
2日目には、 人口約20人の鍋倉集落を訪れました。
ここでは、 機械を使った田植えを体験しました。
普段の生活では触れる機会のない田植え機を、 参加者全員が操縦しました。
田植えは、 美しい田園風景をつくる作業であると同時に、 集落の暮らしと農業を維持するための仕事です。
人口が少なく、 農業の担い手も高齢化する中で、 誰が田を守り、 技術や地域の習慣を次へつなぐのかという 切実な課題があります。
学生たちは、 実際に機械を動かし、 地域の方の説明を受けることで、 農業を遠い社会問題ではなく、 人の暮らしに直結するものとして捉えました。


作業だけでなく、地域の温かさに触れる
田植えの休憩時には、 集落のお母さん方が学生へ優しく声をかけてくださいました。
昼食にはカレーも用意していただき、 作業だけではない交流の時間となりました。
地域との関係は、 ヒアリングや調査だけで生まれるものではありません。
一緒に作業し、 休憩し、 食事をする中で、 相手の人柄や地域の日常が見えてきます。
学生たちは、 鍋倉集落が抱える課題と同時に、 そこで暮らす人々の温かさを感じました。
集落を残すとは、暮らしの関係を受け継ぐこと
田畑や建物を残すだけでは、 集落の暮らしを継承したことにはなりません。 作業の知恵、 食事を分け合う文化、 人と人の助け合いを含めて、 次の世代へどうつなぐかを考える必要があります。
観光地と居住地を、分けずに捉える
あつみ温泉には、 旅館や温泉、 川沿いの景観など、 観光地としての魅力があります。
一方で、 その周辺には、 日々の生活を営む人々や、 人口の少ない集落、 農業を続ける住民がいます。
観光客を増やすことだけを考えても、 地域の暮らしが続かなければ、 温泉地を支える人や文化は残りません。
反対に、 住民の暮らしだけを内側で守ろうとしても、 地域外との交流や経済が縮小すれば、 持続することが難しくなります。
観光と暮らし、 外から訪れる人と地域で暮らす人を 対立するものとしてではなく、 互いに支え合う関係として考える必要があります。
関わり続けること自体に、意味がある
参加者の振り返りでは、 地域との関わり方に 一つの正解はないという言葉がありました。
一度の訪問で、 人口減少や空き家、 農業の担い手不足を解決することはできません。
学生が地域のことを すべて理解したと考えることもできません。
それでも、 現地を訪れ、 地域の人の話を聞き、 自分の関心とつながるテーマを見つけ、 再び関わることには意味があります。
行政に関心がある学生、 農業に関心がある学生、 観光や歴史、 食、狩猟、建築に関心がある学生。
一人ひとりが違う入口を持つことで、 地域との関係も多様になります。
関係人口とは、 地域から決められた仕事を受け取る人ではなく、 対話を重ねながら 自分なりの役割を探し続ける存在でもあります。
学生が現場から感じたこと
温泉街を歩き、旅館経営者や行政職員から話を聞くことで、 観光客の減少、人口減少、空き家など、 自分の地元とも共通する問題があることに気づきました。 人口減少に関わる課題は、 全国の地域に共通するものだと実感しました。
田植えや地域の食文化、 住民の方々との交流を通して、 観光だけでは分からない温海の魅力と温かさに触れました。 地域との関わり方に正解はありませんが、 何らかの形で関わり続けること自体にも意味があると感じました。
学生一人ひとりの興味と、 地域が抱えるテーマを丁寧に結びつけることが大切だと思いました。 自分だけの関心領域を見つけ、 自分ならではの地域との関わり方を探していきたいです。
人口減少や空き家、 集落の存続、農業の担い手の高齢化を 現場で知ることで、 問題の切迫性と多層性を実感しました。 地域の方との適切な関わり方を学び、 模索する必要性を強く感じました。
この活動から生まれたもの
OUTPUT|学生たちが形にした成果
- あつみ温泉街における個人でのまち歩き調査
- 温泉街の魅力・課題に関する参加者ごとの発見と共有
- 旅館たちばなやでの経営・入込客数・売上に関するヒアリング
- 温泉地域における関係人口の役割に関する意見交換
- 温海庁舎職員からの地域振興・行政施策に関するヒアリング
- 参加学生の関心と地域課題を結びつける対話
- 地域から提供されたアンコウ・イカ・筍を使った料理会
- 人口約20人の鍋倉集落における田植え体験
- 参加者全員による田植え機の操縦
- 鍋倉集落の住民との休憩・昼食を通じた交流
- 温海地域の観光・暮らし・農業に関する振り返り
- 学生によるフィールドワーク報告書の作成
OUTCOME|学生と地域に生まれた変化
- 学生が温海地域を観光地と居住地の両面から理解した
- 初訪問者の視点から温泉街の魅力と改善点を捉えた
- 旅館単体と温泉地全体の経営がつながっていると学んだ
- 人口減少・観光客減少・空き家問題の関係を理解した
- 行政と学生が互いの関心を知る対話の機会が生まれた
- 地域の食材を通して温海の自然と食文化を体感した
- 田植え機の操縦を通して農業の現場を身体的に理解した
- 集落の継承を農地だけでなく暮らしの問題として捉えた
- 学生が自分の興味から地域との関わり方を考えた
- 温海地域へ継続的に関わりたいという意識が育まれた
IMPACT|これから地域に育てていく可能性
- 学生が継続的に温海地域を訪れる関係人口プログラムの形成
- 学生視点によるあつみ温泉街の魅力・課題の継続調査
- 朝や日中の滞在を楽しむ温泉街の企画・情報発信
- 空き家や未利用空間を活用した学生・地域住民の交流拠点づくり
- 旅館・行政・住民・学生が連携した地域振興の対話
- 学生の専門や関心と地域課題を結びつけるマッチングの仕組み
- 温海の食材や食文化を生かした体験プログラムの展開
- 鍋倉集落における田植え・農作業への継続的な学生参加
- 小規模集落の暮らしや伝統を記録する地域アーカイブづくり
- 農業・観光・集落文化を横断して学ぶフィールドワークの形成
- 地域内外の人が役割を持って関わる関係人口モデルの検討
- 温海地域を、観光と暮らしの両方を学ぶ実践フィールドへ発展させる可能性
外からの視点と、地域の内側の視点を重ねる
今回のフィールドワークでは、 温泉街、旅館、行政、宿泊所、 人口約20人の集落を訪れました。
外から来た学生だからこそ、 地域では当たり前になっている魅力や課題に 気づくことがあります。
一方で、 短期間訪れただけでは、 地域の歴史や暮らしを 十分に理解することはできません。
外部の視点だけで 改善案を押しつけるのではなく、 旅館経営者、 行政職員、 集落で暮らす人々の話を聞き、 それぞれの視点を重ねる必要があります。
関係人口の役割は、 地域の課題を代わりに解決することではありません。
自分の関心や専門性を持って地域へ入り、 地域の人と対話しながら、 必要なときに力を持ち寄ることです。
一度の訪問で答えを出さず、 何度も関わり、 自分なりの役割を少しずつ育てていく。
温海地域での2日間は、 そのような関係人口のあり方を考える 出発点となりました。
東大生の挑戦に寄り添う、ミライクエストの伴走支援
本活動の企画、訪問、ヒアリング、田植え、振り返りを 主体的に担ったのは、 東大生地方創生コンソーシアムの学生たちです。
学生自身が温泉街を歩き、 旅館経営者や行政職員へ質問し、 地域の食を味わい、 集落の農作業へ参加しながら、 温海地域との関わり方を考えました。
ミライクエストは、 東大生地方創生コンソーシアムの共創パートナーとして、 学生たちの主体性を尊重しながら、 現場で得た学びが次の調査や実践へつながるよう伴走しています。
大切にしているのは、 ミライクエストが学生に答えを与えることではありません。
学生が自分自身の関心から問いを持ち、 地域の方との対話や作業を通して考えを深め、 自分たちの言葉で次の行動をつくれる環境を整えることです。
一度のフィールドワークを一過性の体験で終わらせず、 次の訪問、調査、研究、実践、 地域との継続的な関係へつなげていくこと。
それが、ミライクエストの伴走支援の役割です。
地域と一緒に、人と事業を創る研究所
ミライクエストは、次世代、企業、行政、大学、地域をつなぎ、 現場で生まれた問いや学びを、 次の調査、実践、研究、事業へつなげていきます。
共創パートナー: ミライクエスト
実施期間: 2026年5月9日~5月10日
実施地域: 山形県鶴岡市温海地域
参加者: 東大生地方創生コンソーシアム所属学生7名、外部参加者1名
主な訪問先: あつみ温泉街、たちばなや、 温海ふれあいセンター、楯山荘、鍋倉集落