20年ほど使われていない古民家を実測し、 空き家から出た古本を地域イベントで販売し、 古材を作品展示棚へとつくり変える。 東京大学の学生6名が三重県鳥羽市のなかまちエリアを訪れ、 空き家に残された暮らしの記憶と地域資源を、 次の活動へつなぐ方法を考えました。
本記事では、東大生地方創生コンソーシアムの学生たちが主体となって実施した活動を、共創パートナーであるミライクエストの視点から紹介します。
プロジェクト概要
- 事業名
- 三重・鳥羽フィールドワーク2026
- 実施期間
- 2026年5月2日~5月4日
- 実施地域
- 三重県鳥羽市・鳥羽なかまちエリア
- 参加者
- 東大生地方創生コンソーシアム所属学生 6名
- 実施主体
- 東大生地方創生コンソーシアム
- 共創パートナー
- ミライクエスト
- 主な活動場所
- 江戸川乱歩館横の古民家、 鳥羽駅前ドルフィン広場、 KiccaBASE
- 主な活動
- 空き家・空き店舗の調査、 古民家の実測、 古本市への出店、 地域住民・他大学生との交流、 古材を使った木工作業
- 主なテーマ
- 空き家活用、地域資源の循環、 古材・古本の再利用、 学生と地域の交流、 観光とまちなかの関係、 防災を踏まえた空き家活用
2026年5月2日から4日まで、 東大生地方創生コンソーシアムの学生6名が、 三重県鳥羽市のなかまちエリアで フィールドワークを実施しました。
今回の主な活動は、 空き家の実測調査、 地域イベントでの古本市出店、 空き家から出た古材を使った木工作業です。
鳥羽駅や鳥羽水族館の周辺には 多くの観光客が訪れます。
一方で、 観光地から少し離れたまちなかには、 長期間使われていない空き家や空き店舗が見られます。
それらを単に古くなった建物として捉えるのではなく、 かつて暮らしていた人の記憶や、 建物に残された素材を受け取り、 どのように次の活動へつなげられるのか。
学生たちは、 建物を測り、 古本を販売し、 古材で新しいものをつくる実践を通して、 地域資源を循環させる方法を考えました。
20年間使われていない古民家へ入る
初日は、 江戸川乱歩館横にある古民家や 空き店舗の内部を見学しました。
そのうちの一軒は、 鳥羽駅から徒歩約10分の場所にある 木造2階建ての建物です。
およそ20年間、 空き家として使われていませんでした。
しかし、 駅から近い立地であり、 建物の状態も比較的良かったことから、 今後の活用可能性がある物件として 実測調査を行いました。


建物を測り、図面として残す
実測調査では、 部屋の広さや壁の位置、 開口部や建具などを確認し、 建物の状態を記録しました。
その場で見た印象だけでは、 活用方法を具体的に検討することはできません。
寸法を測り、 情報を整理し、 図面にすることで、 どのような改修や使い方が可能かを 多くの人と共有できるようになります。
後日、6月20日には、 今回の実測データをもとに、 フィールドワーク参加者が図面を起こす作業も行いました。
活用の第一歩は、建物を正確に知ること
空き家を何かに使いたいという発想だけでは、 実際の活用には進めません。 建物の広さ、構造、劣化の状況、 周辺環境を把握し、 関係者が共通の情報を持つことが、 次の提案や設計の土台になります。
空き家の中に残る、暮らしの記憶
長く使われていない建物の中には、 ほこりや不要になった物が残り、 床が傷んでいる場所もありました。
一見すると、 壊して新しい建物へ変えた方がよいように 感じることもあります。
しかし、 仏間や模様の入った襖、 部屋の配置や建具を見ると、 そこに人が暮らしていた時間が 確かに存在していたことが分かります。
参加学生からは、 空き家には人々の思いが宿っており、 簡単に更地へ変えてよいのかを考えさせられたという 振り返りが寄せられました。


空き家は、建物であると同時に地域の記憶
古い建物には、 劣化や管理の負担だけでなく、 そこで暮らした人の時間や地域の文化も残されています。 すべてを保存することが正解とは限りませんが、 何を残し、何を変えるのかを考える前に、 建物が持つ背景へ目を向けることが大切です。
空き家から出た古本を、地域イベントへ
2日目には、 鳥羽駅前のドルフィン広場で開催された まちづくりイベントへ出店しました。
販売したのは、 地域で不要になり、 KiccaBASEへ寄せられていた古本です。
販売ブースにも、 空き家から取り出した古材を使って 制作した什器を使用しました。
空き家の中に置かれたままでは 活用されなかった本や木材を、 人が集まる場所へ持ち出し、 必要とする人へ渡していく。
小さな取り組みですが、 地域に眠る資源を外部へ循環させる 実践となりました。



売上を、次の活動の資材費へ
古本市の売上は、 およそ300円でした。
金額としては大きくありませんが、 売上は次の木工作業に必要な 資材の購入費へ充てられました。
不要になったものを販売し、 その収益を次のものづくりへ使う。
資源だけでなく、 活動に必要なお金も小さく循環させる経験となりました。
捨てられるものを、次の活動を支える資源へ
古本や古材は、 元の使い道を失っていても、 別の場所や目的と結びつけば再び価値を持ちます。 その売上や材料を次の活動へつなげることで、 小さくても継続性のある地域活動へ近づきます。
イベントの合間に、自分の好奇心で鳥羽を歩く
古本市では、 学生が交代で店番を担当しました。
店番のシフトに入っていない時間には、 それぞれが鳥羽で興味を持った場所を訪れました。
文化財となっている古民家、 鳥羽城跡、 学校跡などを巡り、 地域の方から昔の暮らしについて話を聞いた学生もいました。
あらかじめ決められた視察先だけでなく、 自分の関心から場所を選び、 人と出会い、 鳥羽の暮らしや歴史へ触れる。
個人の好奇心を大切にした時間が、 地域を見る視点を広げました。


観光客のにぎわいと、まちなかの静けさ
学生が鳥羽を歩く中で気づいたのが、 観光客の動線が一部の場所へ集中していることです。
鳥羽水族館や駅前の商業施設には 多くの観光客が訪れていました。
一方で、 文化財の古民家や鳥羽城跡、 学校跡など、 まちなかの場所では 観光客をほとんど見かけなかったという感想もありました。
鳥羽駅から水族館や真珠島へ向かい、 そのまま帰るという動線が固定されているのではないか。
空き家や古民家を魅力的な施設へ変えることで、 町の中へ人の流れを広げられる可能性もあります。
ただし、 観光客を増やすことが 必ずしも地域住民の望む将来とは限りません。
どのような人に来てほしいのか。
どの程度のにぎわいを目指すのか。
住民の暮らしと観光を どのように両立させるのかを考える必要があります。
観光地の近くにある、暮らしの地域を見る
有名な観光施設だけを訪れても、 地域の暮らしや課題は見えにくいものです。 観光客の動線から少し外れ、 まちなかを歩き、 住民の話を聞くことで、 鳥羽の別の姿が見えてきます。
地域住民や他大学の学生と、食卓を囲む
2日目の夜には、 KiccaBASEで交流夕食会を行いました。
イベント運営を手伝っていた学生や、 地域住民の高齢者を中心に、 多様な参加者が集まりました。
バーベキューを囲みながら、 自己紹介やイベントの感想を話し、 交流を深めました。
他大学の学生とも、 それぞれの地域活動や関心について 話す機会が生まれました。


楽しむことが、人をつなぐ
交流会の後半には、 テーブルサッカー大会が始まりました。
初対面の人同士でも、 ゲームが始まると自然に声が生まれ、 会場が盛り上がりました。
地域の課題を真剣に考えることと、 参加者自身が楽しむことは、 対立するものではありません。
楽しい時間を共有することで、 新しい人が入りやすくなり、 次の活動へつながる関係も生まれます。

まちづくりを、楽しみながら続ける
壮大な地域課題を掲げるだけでなく、 まず目の前の日常を面白くする。 自分たちが楽しみながら人を巻き込み、 小さな活動を続けることが、 地域の空気を少しずつ変えていきます。
古材を、アート作品の展示棚へ
最終日は、 KiccaBASEで木工作業を行いました。
制作したのは、 鳥羽水族館で予定されている アート作品展示に使用する作品展示棚です。
材料には、 空き家から取り出した古材を使いました。
あらかじめ加工済みの材料が 用意されていたわけではありません。
その場にある木材の長さや形を確認し、 どのような構造にすれば 作品を安全に展示できるかを考えながら、 即興的に設計と制作を進めました。
参加者が臨機応変に役割を分担し、 無事に作品を飾ることのできる棚を完成させました。

使い方を失った素材に、新しい役割を与える
空き家の古材は、 建物を解体すれば廃棄物になる可能性があります。
しかし、 材質や形を見ながら使い方を考えることで、 展示棚やイベント什器として 新しい役割を持たせることができます。
新品の材料のように 寸法や品質がそろっていないからこそ、 現場で考え、 工夫し、 手を動かす力が必要です。
古材を使うことは、 単なる節約ではなく、 建物の記憶を別の場所へ引き継ぐことでもあります。
再利用は、素材の過去と未来をつなぐ
古材には、 傷や色の変化など、 建物として使われてきた時間が残っています。 その特徴を消すのではなく、 新しい用途の中で生かすことで、 地域の記憶を次の活動へ引き継ぐことができます。
空き家活用と、防災を切り離さない
学生の振り返りでは、 空き家を人が集まる場所へ変える際の 安全性についても問題が提起されました。
古い建物を改修する場合、 内装や表面的な部分だけでなく、 建物の基礎や構造、 耐震性を確認する必要があります。
鳥羽のまちなかには、 津波や土砂災害の危険性がある場所もあります。
魅力的な空間をつくり、 人を呼び込むことだけを優先せず、 避難経路、耐震性、立地条件を含めて 活用方法を検討しなければなりません。
空き家活用と防災は、 別々のテーマではなく、 人が安心して集まる場所をつくるために 同時に考える必要があります。
「使えるか」だけでなく、「安全に使えるか」を考える
空間の魅力や立地だけで活用を決めるのではなく、 建物の構造、災害リスク、避難方法まで確認する。 人が集まる場所に変えるからこそ、 安全性を活用計画の中心に置く必要があります。
学生が現場から感じたこと
Kiccaの方々は、 自ら率先して行動しながら周囲を巻き込んでいました。 自分の信念を持ち、 学生とも真剣に対話する姿が印象的で、 自分も地方創生に対する考えを持って取り組みたいと思いました。
空き家の中には、 ほこりや傷んだ床だけでなく、 仏間や模様の入った襖も残っていました。 そこに人が暮らしていたことを感じ、 空き家には人の思いが宿っていると考えました。
鳥羽には空き家が増え、 町が少しずつ静かになっているように感じました。 一方で、 地域のために活動する人々や、 美しい港町の風景に強い魅力を感じ、 また鳥羽を訪れたいと思いました。
地域の方々は、 壮大な課題を解決しようとする前に、 まず目の前の日常を面白くしようとしているように感じました。 楽しみながら活動する姿が、 少しずつ地域の空気を変えていると思いました。
鳥羽水族館周辺には観光客が多い一方、 少し離れたまちなかでは観光客をあまり見かけませんでした。 空き家の活用によって人の流れを広げる可能性とともに、 住民の暮らしや防災を考える必要性を感じました。
この活動から生まれたもの
OUTPUT|学生たちが形にした成果
- 鳥羽なかまちエリアにある空き家・空き店舗の内部調査
- 約20年間使われていなかった木造2階建て古民家の実測
- 部屋、壁、建具、開口部などの寸法・状態の記録
- 実測データをもとにした図面起こし作業
- 空き家から出た古本を活用した地域イベントへの出店
- 空き家の古材で制作した販売ブースの活用
- 学生による古本の接客・販売
- 売上を次の木工作業の資材費へ充当
- 鳥羽の文化財、史跡、まちなかを学生が自主的に調査
- 地域住民・他大学生との交流夕食会
- テーブルサッカーを通じた世代・所属を越えた交流
- 空き家の古材を使ったアート作品展示棚の設計・制作
- 参加学生による振り返りと活動報告書の作成
OUTCOME|学生と地域に生まれた変化
- 学生が空き家の状態と活用可能性を具体的に把握した
- 建物の実測と図面化が活用提案の土台になると学んだ
- 空き家を地域の記憶が残る場所として捉える視点が生まれた
- 古本・古材を地域資源として循環させる経験を得た
- 小さな売上を次の活動へつなげる実践を行った
- 学生が自分の好奇心から鳥羽の歴史や暮らしを調べた
- 観光客の動線とまちなかの人流の違いに気づいた
- 地域住民や他大学生との新しい関係が生まれた
- 楽しみながら活動することが継続的なまちづくりにつながると学んだ
- 空き家活用には防災・耐震・避難の視点が必要だと理解した
- 学生の中に鳥羽へ再び関わりたいという意識が育まれた
IMPACT|これから地域に育てていく可能性
- 実測した古民家の具体的な活用方法を学生が提案する次回フィールドワーク
- 大学生、建築関係者、地域住民による空き家活用の共同検討
- 空き家の図面・写真・歴史を蓄積する地域アーカイブの作成
- 古材や古本を継続的に循環させる地域内の仕組みづくり
- 空き家の素材を使った家具・什器・展示作品の開発
- 古民家を活用した学生・地域住民の交流拠点の形成
- 鳥羽水族館周辺と鳥羽なかまちをつなぐ回遊企画の検討
- 学生視点による鳥羽の文化財・史跡・暮らしの情報発信
- 地域住民の意向を踏まえた観光と暮らしの両立
- 津波・土砂災害・耐震性を踏まえた安全な空き家活用モデルの検討
- 他大学の学生と連携した地域横断型の空き家プロジェクト
- 鳥羽を、地域資源の再利用と空き家活用を学び実践するフィールドへ発展させる可能性
空き家を、地域の過去と未来をつなぐ場所へ
今回のフィールドワークでは、 空き家の実測、 古本市への出店、 古材を使った木工作業を行いました。
それぞれは異なる活動に見えますが、 共通しているのは、 使われなくなったものをそのまま捨てず、 次の役割へつなげていることです。
建物を測ることで、 活用を考えるための情報が残る。
古本を販売することで、 本が新しい持ち主へ渡り、 売上が次の活動へ使われる。
古材を加工することで、 建物の一部だった木が、 アート作品を支える展示棚へ変わる。
空き家活用は、 建物を改修することだけではありません。
そこに残された素材、 記憶、 人との関係を受け取り、 次の活動へつなげていくことです。
一方で、 人が集まる場所に変えるためには、 建物の安全性や災害リスクを 丁寧に確認しなければなりません。
魅力と安全、 観光と暮らし、 保存と変化を どのように両立させるのか。
今回の実測データと地域での出会いをもとに、 学生たちは次のフィールドワークで、 この古民家の活用方法を提案したいと考えています。
東大生の挑戦に寄り添う、ミライクエストの伴走支援
本活動の企画、調査、出店、交流、制作を主体的に担ったのは、 東大生地方創生コンソーシアムの学生たちです。
学生自身が空き家へ入り、 建物を測り、 地域に残された本や木材を使いながら、 鳥羽のまちなかに必要な活動について考えました。
ミライクエストは、 東大生地方創生コンソーシアムの共創パートナーとして、 学生たちの主体性を尊重しながら、 現場で得た学びが次の調査や実践へつながるよう伴走しています。
大切にしているのは、 ミライクエストが学生に答えを与えることではありません。
学生が自分自身の関心から問いを持ち、 地域の方との対話や作業を通して考えを深め、 自分たちの言葉で次の行動をつくれる環境を整えることです。
一度のフィールドワークを一過性の体験で終わらせず、 実測データ、図面、制作物、地域との関係を、 次の提案や実践へつなげていくこと。
それが、ミライクエストの伴走支援の役割です。
地域と一緒に、人と事業を創る研究所
ミライクエストは、次世代、企業、行政、大学、地域をつなぎ、 現場で生まれた問いや学びを、 次の調査、実践、研究、事業へつなげていきます。
共創パートナー: ミライクエスト
実施期間: 2026年5月2日~5月4日
実施地域: 三重県鳥羽市・鳥羽なかまちエリア
参加者: 東大生地方創生コンソーシアム所属学生6名
主な活動場所: 江戸川乱歩館横の古民家、 鳥羽駅前ドルフィン広場、 KiccaBASE